「ディートリッヒ・ボンヘッファーについて

    ‐その生涯」  

 

2007年 川上純平

 

 

 

 

 

 

 

第3章 ナチス・ドイツに対する抵抗運動への参与

 

1938年1月、ボンヘッファーは「首都滞在禁止処分」を受け、ベルリンから追放

されてしまう。2月頃、クーデター計画について初めて知るに至り、3月、マルティン・

ニーメラー牧師が強制収容所に入れられるが、9月に牧師研修所での経験が元になった

『共に生きる生活』(Gemeinsames Leben)が執筆される(出版は1939年)。こ

の本はボンヘッファーが、若い牧師たちとの交わりでの敬虔な生活様式の経験を書き上

げており、キリスト者の生活において日々、聖書に結びついた静かな時間の黙想が必要

であることを述べる「敬虔の書」であると同時に、そのことを通してドイツ教会闘争に参

加することになったという意味で「戦いの書」「抵抗の書」でもあった。(10)

11月9日、ナチス・ドイツによるユダヤ人住民に対する迫害「クリスタル・ナハト

(水晶の夜)事件」が起こり、ドイツで約280のシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)が焼き

討ちにあったが、この時、告白教会は公的には何も発言しなかったのであった。

1939年6月、ボンヘッファーは「休暇」のためにアメリカに赴くが、アメリカ滞

在中に亡命ではなく、ドイツのキリスト者たちと共に生きる決断をする。

1940年6月から8月まで東プロイセンの告白教会を問安。9月から10月まで『倫

理』(Ethik)の一部を執筆する(出版は1949年 邦題:『現代キリスト教倫理』)。

この頃、ボンヘッファーは、ヒトラー暗殺計画を考え始め、10月に、軍部内の抵抗派グ

ループに近づくため、ナチス諜報部に入り、ミュンヘン支所に配属される。11月、ミュ

ンヘンのエタール修道院(ベネディクト派)に滞在し、ここでも『倫理』を執筆し続けた。

1941年2月から3月までスイスに旅行し、カール・バルト、ヴィサートーフトを訪

問し、ドイツ軍の戦線停止と戦後のドイツのあり方について話し合った。(11)また、

3月には印刷出版禁止処分を受ける。10月にベルリンより、ユダヤ人の第1回大量移送

が夜に行なわれたため、諜報部と協力して少数ユダヤ人救出作戦を行なった。

1942年1月、ナチス指導者によるヴァンゼー会議で百万のヨーロッパ在住ユダヤ人

撲滅が決定される。同年の春、ナチスによる郵便の検閲、電話の盗聴が行なわれていると

の報告をボンヘッファーらは受け取るが、5月にベル主教と会い、クーデター計画につい

て知らせる。その後、ベル主教はイギリス政府に対し、ヒトラー政権に抵抗しているグル

ープがいることを伝えるが相手にされず、またアメリカ大使を通してアメリカ政府にヒト

ラーに対する抵抗運動について伝えるが返答はなかった。9月、ボンヘッファーたちはユ

ダヤ人グループ救出に成功し、11月、ボンヘッファーはマリア・フォン・ヴェデマイア

ーと婚約した。

また、この年の末に、ボンヘッファーは、ナチス・ドイツに対する抵抗派の指導者ルー

ドヴィッヒ・べック大将の求めに応じて、ヒトラー政権崩壊後のドイツ再建の見取り図を

教会側からの試案として起草し、同時に戦後の教会についての文書を執筆した。(12)

1943年2月、スターリングラードでドイツ軍が降伏する。3月、トレスコウ、シュ

ラプレンドルフらによるヒトラー暗殺計画が未遂に終わる。さらにナチスにより1942

年9月のユダヤ人グループ救出作戦が判明し、1943年4月、ボンヘッファーはナチス

に逮捕される。

1944年4月、ボンヘッファーが親しい友人であったエーバハルト・ベートゲ宛に獄

中からの最初の神学的手紙を書く(この頃からベートゲが逮捕されるまでに書いた手紙が

後に出版された『獄中書簡集』に収められている重要な神学的断片であった)。(13)

7月、シュタウフェンベルクらによるヒトラー暗殺計画も未遂に終わる(7月20日事

件)。9月にベートゲが逮捕され、同じ頃、ボンヘッファーらが1938年からクーデタ

ー計画に参加していたことを証明する諜報部の書類がナチスによって発見される。

1945年4月5日、ヒトラーはボンヘッファーらのグループの処刑を決定し、9日に

ボンヘッファーが絞首刑になる。ボンヘッファーは処刑される前にジョージ・ベル主教へ

の伝言として「これで最後です。私にとっては生命の始まりです。」と語った。

4月30日にヒトラーは自殺。5月8日にドイツは完全降伏した。

 

戻る



(10)  『告白と抵抗』53頁、『キリストの形』116頁。

 

(11)  エーバーハルト・ブッシュ著、『カール・バルトの生涯 1886‐1968』小川圭治訳、1995年(第2版)、446頁。

 

(12)   『告白教会』399‐408頁参照。

(13)   『獄中書簡集』は『抵抗と信従 獄中からの手紙と記録文(Widerstand und Ergebung. Briefe und Aufzeichnungen aus der Haft)という題の書物として抜粋部分がベートゲ氏の編集で1951年に初めて出版され、その神学思想は現代の教会に多大な影響を与えている。また、その全体像が明らかになったのは1970年に新しく改訂され出版されてからのことであった。