東方教会について                  2010年1月 川上純平

 

 

そもそも東方教会はキリスト教会が信仰内容をめぐって論争し、また異なる立場を異端として断罪する中で生まれた。それは431年にキリスト教の一派であるネストリウス派(後に景教として日本に伝えられた)がヨーロッパのキリスト教の諸教会が集まって行なわれたエフェソ公会議において異端として断罪されたことにその成立は遡る。それとの関係で451年にカルケドン公会議が開かれた。そこでイエス・キリストが神であり人であるという「キリスト教両性論」が正統的教義であるとされた際に、キリストの神性のみを強調した「単性論(単性説)」を説いた立場の人々、つまりエジプトや中東の諸教会であるコプト教会、エチオピア教会、シリア教会、アルメニア教会等が正統とされた諸教会から離脱した。それらは「東方諸教会」と呼ばれ、さらにカルケドン公会議で正統的教義を保持していたはずの東西教会も後の1054年の「フィリオクェ論争(コンスタンティノポリス信条における聖霊論に基づく論争)」等によって分裂し、ローマ教会(西方教会)以外の教会(コンスタンティノポリス教会等:コンスタンティノポリスはかつて東ローマ帝国の首都であり、旧名をビザンティウム、現在はイスタンブールと呼ばれる)は「東方正教会」として存立するに至った。

「東方正教会」という名称の由来についてはいくつかの説がある。「東方的」ということをキリスト教の純粋な起源が西方教会に対して東方にあるということ、「正」を後に述べる7つの公会議による教理の決定を保持するという「正統的」ということによるものとする立場、(1)「正教」を異端がキリストのもたらした生活を哲学思想として扱うのに対して、キリストの使徒たちが受けたままの生活を守っているという意味であるとする立場(2)や「正教会」は英語で“Orthodox church(オーソドックス・チャーチ)”と言うが、これは「正しく(ρθς オルソス)」「神を賛美すること(δξα”ドクサ)」というギリシア語に由来するという立場(3)等がある。

東方教会においては西方とは異なる独自の神学も展開されるに至り、神秘主義的色彩が強く、霊的修道生活が主に行なわれ、初期には特に哲学と神学の対立が調和された。代表的な人物として修道院制を確立したバシレイオス、彼の弟でありキリスト教神秘主義的著作を記したニュッサのグレゴリオス、バシレイオスの友人であり正統的信仰を擁護したナジアンゾスのグレゴリオス(上記3人はカパドキア教父とされ、それぞれ4世紀に聖霊論、三位一体論の確立にも努めた)、キリストが神性と人性を保持しているとする「両意論(両意説)」を主張した7世紀のマクシモス、アリストテレスを土台として神学を確立した8世紀のアラブ人キリスト者であるダマスコスのヨアンネス、霊性運動について記した7世紀のヨアンネス・クリマクスとそれを理論化した14世紀のグレゴリオス・パラマス、キリストとの一致を説いたT4世紀のニコラオス・カバシラス等がいる。彼らの神学は後の正教会(ギリシア正教会・ロシア正教会やロシア宗教思想等)の神学の土台となった。(4)一方で、彼らの一部はキリスト教信仰の体系的形成には特に関心を持っていないとされている。それはキリスト教神学が神から与えられたものにすぎないということ、彼らが影響を受けた4世紀の主教アタナシオスが言うように神学は聖徒の精神の表現であるということによる。(5)東方教会においては否定神学(「神は〜ではない」という言葉によって神の存在を語る)も特徴的である。

信仰生活・教理・制度等については、特に東方正教会においては、イコン(礼拝用聖画像)を用い、礼拝は荘厳であり「典礼(奉神礼)」と呼ばれ、歌、ロウソクや香、飾り付けによって信仰を深化させようとする。聖礼典を「機密」と言い、その中で聖餐式は「聖体礼儀」と言われる。教会は国家と調和を図ることが求められ、信仰生活においては聖化が重んじられる。教理的には聖書と伝統が重視され、787年までに行なわれた7つの公会議での決定が絶対視され、聖職として古代からの使徒伝承による主教、司祭、輔祭が存在する。教会暦としてユリウス暦あるいは新ユリウス暦という独自の暦を使用。日本には1861年に司祭ニコライによって伝えられている。(6)

 

 

(参考資料)

 

・『キリスト教大事典』、教文館、1991年〈改訂新版第10版〉。

The Abridged Liddell-Scott Greek-English Lexicon. Oxford University Press. 1994

・石井裕二著『キリスト教会・教派概説』、同志社大学神学部、1994年〈第4版〉。

・大貫隆・名取四郎・宮本久雄・百瀬文晃編『岩波キリスト教辞典』、岩波書店、2002年〈第1刷〉。

・八木谷涼子著『知って役立つキリスト教大研究』、新潮社、2002年〈第2刷〉。

アリスター・E・マクグラス著、神代真砂実訳『キリスト教神学入門』、教文館、2007年〈第4版〉。

Christian theology An Introduction, Third Edition,2001.

 

 

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(1)  石井裕二著『キリスト教会・教派概説』、1994年〈第4版〉。

(2)  高橋保行著「ギリシア正教」『岩波キリスト教辞典』、岩波書店、2002年。

(3)  八木谷涼子著『知って役立つキリスト教大研究』、2002年〈第2刷〉、46頁。

(4)  宮本久雄著「神学:古代・中世」『岩波キリスト教辞典』、岩波書店、2002年。

(5)  アリスター・E・マクグラス著、神代真砂実訳『キリスト教神学入門』、2007年〈第4版〉、89、90頁。

(6) 大森正樹著「東方正教会:特質」、宮崎正美著「同項目:典礼」、『岩波キリスト教辞典』、2002年。